燃え殻さんの新刊『これはただの夏』。7月29日の発売を前に、マカロニえんぴつのはっとりさんの書評全文を特別公開!

株式会社新潮社

『これはただの夏』新潮社刊


「この切なさは、事件だ」「大人泣き小説」等々と大評判となり、単行本や文庫刊行時には、あいみょんさんらを虜にした小説『ボクたちはみんな大人になれなかった』から4年。

燃え殻さんの小説第二弾『これはただの夏』が7月29日、ついに刊行されます。
これに先駆けて、新潮社月刊誌「波」(7月27日発売)掲載の、マカロニえんぴつのはっとりさんの書評を特別大公開します!


マカロニえんぴつ はっとりさん

(書評全文)
 燃え殻さんの言葉はやさしい。この場合「優しい」と「易しい」だ。彼はいわゆる本の虫だったわけでなく、むしろ活字が苦手な方だったと何かで話していた。何度も同じ行を読み返してしまったり、途中で音を上げて栞を挟んだきりなんてざらだったと。だからか、と腑に落ちた。胸を打つtwitter投稿の数々が話題となった彼の小説には、140文字のツイートのリズムそのままが絶えず走っている感じがあった。拍子抜けする妙な間奏も難解な展開もない彼の文章は非常にノリやすく、一冊まともに読み切れたことのない同じ側の自分には優しくて、易しかった。もともと落ちこぼれだった先生は教え方が上手い、に近い。できない生徒の気持ちがよく分かる。
 リズムもそうだし、リアルもある。小気味良く“事件”が毎ページで起きてくれるのだけど、小さな嫌な予感が的中して降ってくるのはやはりそれに見合った小さな事件で。それが絶妙にリアルなのだ。人生に、というか生活に大事件はさほど頻繁に起きないし起きてほしくないけど、なんとなく人並みに散々な目には遭っていたい。多くの人間がそういう情けない価値観を小脇に抱えて暮らしている。自ら受け入れたはずのその人並みの不幸の連続に縛られ、あるいは他者に付け込まれてだんだんと身動きが取れなくなっていく主人公の姿がたまらなく愛おしいのだ。だって、自分なんだもん。あの日の、そして今日までのやるせない自分そのもの。そうやって読む人すべてを【自分ごと】にさせてしまうのが燃え殻さんの小説の魅力であると感じる。

『これはただの夏』

今作を一晩で読んだ。読めてしまった。リズムとリアルに没入していたら明け方だった。

 いつか平沢進氏が「僕の音楽を誰かに無理に勧めるようなことはしないでほしい。人にはそれぞれ出逢うベストなタイミングと手に取る準備があるから」というようなことを口にしていて、以来それを僕は肝に銘じているのだが、この本を読み終えた直後は今すぐ他の誰かにおしえたくなった。「あんたも手遅れになる前に早く」って、急いでおしえたい夏だった。
 知人の結婚披露宴で出会った優香、ある雨の日に出会った小学生の明菜、仕事先の先輩であり長年の悪友である大関、そしてボク。4人の短い夏が本作では描かれる。皆それぞれが問題を抱えながらも引き際や諦めを知って緩やかに平凡を生きているが、じつはボクにも他の3人にも制限時間のある夏だった。彼女たちが暗示しているヘルプに気づきながらもボクはモタつき、どの事情とも深くは交われずにいる。ようやく素直に向き合おうと覚悟したときには、夏は終わっていた。
 この作品からは場面ごとに多様なメッセージが見出せる。胸がひりつくピークも読んだひとによって異なりそうだ(僕の場合は終盤の大関との電話のシーンだった)。いい意味で全体が“散らかって”いて、それが物凄くリアルな夏の湿度を描いている。自分の夏の記憶を辿れば、ノボせたうだる日々の情景がパッチワーク状に繋ぎ合わさって浮かび、そこらじゅうに未だ清算できていない後悔が落ちている。そういえばどの夏にも制限時間があったし、いつも少し間に合わなかった。そうなんだ。夏は迎えるたび、そして越えるごとに何故だか散らかっていく。
あの夏、素直に会いに行ってただ一緒に泣いてやればよかった。本当はそうしたかったのにできなかった全てのボクは、この小説を読んで【自分ごと】にせずにはいられないだろう。前作『ボクたちはみんな大人になれなかった』は全力で独り占めしたかったのに対し、この小説は、ここに描かれている数日は、今すぐ誰かに伝えたくなる。
「もう遅いと思うには、きっとまだ早い」と。
(はっとり ミュージシャン)
新潮社月刊誌「波」(7月27日発売)より


マカロニえんぴつは、いま最も注目されている「全年齢対象ポップスロックバンド」。テレビ東京系アニメ『ドラゴンクエスト ダイの大冒険』の『生きるをする』やTBS系情報番組『王様のブランチ』テーマソング『好きだった(はずだった)』などで一度は必ず耳にしたことがあるはず。はっとりさんは「マカロニえんぴつ」のヴォーカルとギター担当で、大半の曲を作詞・作曲しています。


【プロモーションムービー】
出演・仲野太賀 制作・望月一扶 音楽・けもの
https://youtu.be/aVUAh6tsRDc

・7月12日(月) ショートバージョン(ティザー)公開
・7月29日(木) フルバージョン公開
朗読はあの人気若手声優!発売日にあきらかに!!

【特設サイト】
https://www.shinchosha.co.jp/special/tadanonatsu/

【『これはただの夏』STORY】
その瞬間、手にしたかったものが、目の前を駆け抜けていったような気がした。
「普通がいちばん」「普通の大人になりなさい」と親に言われながら、周囲にあわせることや子どもが苦手で、なんとなく独身のまま、テレビ制作会社の仕事に忙殺されながら生きてきてしまった「ボク」。取引先の披露宴で知り合った女性と語り合い、唯一、まともにつきあえるテレビ局のディレクターにステージ4の末期癌が見つかる。そして、マンションのエントランスで別冊マーガレットを独り読んでいた小学生の明菜と会話を交わすうち、ひょんなことから面倒をみることに。ボクだけでなく、ボクのまわりの人たちもまた何者かになれず、何者かになることを強要されていたのかもしれない……。

【プロフィール】

(c)ウートピ
燃え殻(もえがら)
1973年生まれ。小説家、エッセイスト、テレビ美術制作会社企画。WEBで配信された初の小説は連載中から大きな話題となり、2017年刊行のデビュー作『ボクたちはみんな大人になれなかった』はベストセラーに。同作は2021年秋、Netflixで森山未來主演により映画化、全世界に配信予定。エッセイでも好評を博し、著書に『すべて忘れてしまうから』『夢に迷って、タクシーを呼んだ』『相談の森』がある。                      

【書誌情報】
発売予定日:7月29日(木)
総ページ:212ページ/判型:四六判 
厚表紙角背カバー
定価:1,595円(税込)

『これはただの夏』は1週間後の7月29日発売。待ち遠しい発売まで、はっとりさんの書評に加え、PVのティザーと大橋裕之さんによるアナザーストーリー的なマンガも公開中。お楽しみください。
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