サッカー元日本代表 鈴木啓太氏「腸内環境はパフォーマンスに影響を与える」新ビフィズス菌が担う意識改革

2020年9月、AuB株式会社は新しいビフィズス菌の発見を発表した。

元オリンピック選手から発見された特殊な菌で、世界初の事例として国際特許を申請している。

「AuB-001」と名付けたこの新たなビフィズス菌がどのようなプロセスで発見に至ったのか。サッカー元日本代表で、現在はAuB株式会社の代表取締役である鈴木啓太氏にスポーツ界の発展も交えながらお話を伺った。
(写真提供:AuB株式会社)

元オリンピアンから発見されたビフィズス菌

「AuB-001」とは今回新たに発見された種類のビフィズス菌である。

同菌の「ロンガム種(※1)」の中でも特に摂取可能かつ安全な菌株(※2)で、元オリンピアンの腸内環境から発見されたものである。

新種のビフィズス菌「AuB-001」

※1 ロンガム種は、約80種類あるビフィズス菌の中でも酸や酸素に強いとされているが、その代表的なロンガム種の中でも、AuB-001は特に耐酸性に優れていることから、より生きて腸に届きやすいと言える。

※2 人間でも一人一人DNAが異なるように、同じ種類の菌でも、さらに細分化した菌株毎にDNAが異なります。そうやってDNAの情報をもとに菌を分類したときの最小単位を「菌株」と言う。

AuB社は、これまで28種目・700人以上のアスリートの腸内環境を解析しており、特徴的な腸内環境を持つ元オリンピック選手に着目した。その中から特異的な腸内細菌を見つけ出し分析を続けた結果、新しいビフィズス菌であることを突き止めたのだ。鈴木氏はこう語る。

「私たちが創業当初から探し求めていた、『アスリートから特有の菌を見つける』このような研究目標を立てていた中で、第1号の菌が見つかりました」

創業から追い求めていたものが発見できたと語った

「AuB−001」の持つ3つの特徴

「AuB−001」は3つの特徴を持っている。

キーワードは「ソルビトール」「短鎖脂肪酸」「耐酸性」である。

ソルビトールとは、果実や海藻に多く含まれる天然の糖アルコールで世界で最も多く使用されている。

「AuB-001」は増殖・発酵する際にソルビトールを利用する。従来、ロンガム種のビフィズス菌では、ソルビトールを利用して増殖する能力(ソルビトール資化能)を持つ事例は世界で発見されていなかった。

この増殖する過程において、便通改善や免疫機能の調整に有益な「酢酸」や「乳酸」などといった「短鎖脂肪酸」。ここで2つ目のキーワードが登場する。

短鎖脂肪酸とはヒトの腸内環境に良い働きをもたらし、前述の酢酸には「感染症を予防する機能」と「免疫機能が過剰に働くことを抑える機能」両方のはたらきがある。短鎖脂肪酸を増やすことで、腸から体の調子を整えてくれる。

AuB社では、ソルビトール資化能と短鎖脂肪酸の産生能力について調べるため、ビフィズス菌ロンガム種の基準株と「AuB-001」を比較実験した。

実験結果では、基準株よりも酢酸を約11倍、乳酸を12倍強産生することを確認した。

そして3つ目の「耐酸性」。一般的にビフィズス菌は酸性の環境に弱く、経口摂取した場合には胃酸の影響で死滅しやすい。

「AuB-001」ではビフィズス菌基準株と比べるため、人工胃液と反応させて耐酸性を調査。基準株の生残菌数は30分後にはほぼ0となり、40分後には菌は未検出となったが、一方でAuB-001は試験をした60分後でも生存する結果が明らかになった。

人工胃液と反応させた「AuB-001」※左から0分後、30分後、60分後

5年に亘る地道な調査で発見へ

今回の「AuB−001」は、創業以来初となるアスリートから発見された腸内細菌である。ここに至るまで約5年間、地道な研究を積み重ねてきた。

AuB社はこれまで700人以上のアスリートの腸内環境の情報を集めてきた。しかし、創業当初は0からのスタートだった。情報を集めるためにはアスリートの便を採取することが必要で、鈴木氏が親交のあるラグビー日本代表・松島幸太朗選手やプロ野球・嶋基宏選手らの協力を得て知見を溜めてきた。

「アスリートと一般の方でどのような違いがあるのかをテーマに設定して、多くの検体を集めました。やはり『アスリートの腸内環境が特徴的である』というのが分かってきたので、その中で複数の菌に照準を当てて1つ1つ調査を重ねた結果発見しました」

多くの菌の中から特徴的なものを見つけ出し、その中でも協力いただいた元オリンピック選手の持つ腸内細菌であることが判明した。

そして冒頭の説明の通り、世界で初めての新しいビフィズス菌であるということから国際特許取得へと進める。発見から申請まで2年を要した。

「再度その菌を取得して培養する必要がありました。また、世界で基準とされている菌株があり、その菌株よりも能力が高いものになって初めて特許が取得できるので(特許申請までに)時間はかかりましたね」

スポーツ界に伝えていきたいこと

今後、「AuB−001」をさまざまな形で活用していく構想を持っている。

商品化や特許ビジネスを具現化するべく、現在は安全面の検証と並行しながら企業や研究機関などのパートナーを増やすべく動いている。

鈴木氏はアスリートのコンディショニングを行う上で、まだ”腸”にフォーカスが当たっていないことが課題と考えている。

「腸内環境が与える影響に対してアスリートの方々の意識を向けたいです。我々がAuB-001を発見したことで、『腸内環境がコンディショニングやパフォーマンスに大きく影響している』ということについて理解を深めていただければと思っています」

「AuB-001」を通じて腸内環境の大切さをさらに伝えていきたいと語った

鈴木氏は幼少時から母に「人間で一番大事なのは腸」と教えられてきた。

そこから常に腸内環境のコンディショニングを徹底し、現役時代の海外遠征時には緑茶と梅干を必ず持参していた。

2004年のアテネ五輪・サッカーアジア予選で行ったドバイの遠征では、多くの選手が下痢の症状に見舞われる中でその影響を全く受けなかった。それは日頃から腸内環境を整えていたからに他ならなかった。

自身の経験からも、腸から体のコンディショニングを行う必要性を誰よりも理解している。だからこそ伝える使命感を抱いている。

「AuB-001が与えるものは、もしかしたらまだ一部なのかもしれません。我々が研究を進めることで明らかにしていきたいです。そして、もっと『腸内環境がコンディションと密接に関係している』ということをスポーツ界に伝えていかなければなりません」

新たな支援への取り組み

AuB社は「AuB-001」を含め、新たな腸内細菌の発見から得た利益の一部を、提供してくれたアスリートが所属する競技団体に寄付するという、新たなスポーツ支援の形をつくろうとしている。

検体取得に協力してくれた方たちへのサポートもさる事ながら、それぞれの育ってきたバックグラウンドにも還元したいという想いから生まれた構想である。

「”教育”も非常に大きな意味を持っており、情報格差があってはならないと思います。『次世代のアスリートに何か貢献できる事はないか』というのも今後さらに突き詰めていきたい。それがスポーツ界の発展にもつながると思っていますし、大きな使命だと考えています」

AuB社が創業以来、年月をかけて追い求めた”アスリート特有の腸内細菌”。

この最初の一歩である「AuB−001」が未来のスポーツ界を動かす歯車として、今動き出そうとしている。

(取材 / 文:白石怜平)

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